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遙邨は、その生涯に比較的多くの作品を残しています。倉敷市立美術館には、毎日の食卓など身辺のささやかな出来事をスケッチした作品が「絵日記」として収蔵されています。何にでも興味をもって見つめ、その感動を多くの人と共有したいという思いが伝わってきます。遙邨は「絵を描くことの楽しさは、技巧の上手下手は二の次にして、ただ自然を見る心、美しさに対する感受性が養われてゆくだけでも素晴らしい」と語っています。
「絵日記」1980年
「行きくれてなんとここらの水のうまさは 山頭火」 1988年
晩年には漂泊の俳人・種田山頭火に心を寄せ、その句境の絵画表現に挑んだ、いわゆる山頭火シリーズに情熱を傾けます。好きな句を何枚も書き出しては画室の壁に張り、「これらを描き終えるには125歳まで長生きしなければ」と、おとろえることない制作意欲をみせて次々に作品を発表しました。飄逸あるいは洒脱とも評されるこれらの作品には、できることなら山頭火のように旅をしたいと願っていた遙邨の思いが託されています。自然を愛し、旅にあこがれた遙邨は、1988(昭和63)年9月26日、急性心不全のため93歳の誕生日を目前に他界しました。