資料4 新板地震万歳
資料4 「新板地震万歳」(倉敷市所蔵尾崎家文書17-28-29)
翻刻
新板地震万歳
嘉永七年寅の霜月頃ハ五日
晩方海上鳴ける大地震、合
コリャとふしやう、腰立かぬる、足元ゟ水も
さかまく、つなミもうち流けるハ
誠に苦しうそふらいける
合南無金毘羅大権現・南無瑜加
大権現、助てたひ給へ、そりゃまた
来た、とふ、とふ、とふ
おふた子供ハわんばくゆうやら、おろ
せばほへる、合ヤレコリャ此子をとふしやうへ
火之元大事、おれハひら地へ、かゝハ
船へと、合チリチリワカレユク
よろよろ、めきめき裏屋根の落る
音にて、合ヒトヒトひつくり、しやうたくも
店も土蔵も一へんに、はたはたくだけて
われて、合天道さんお助なされて
妙見さん、とあちこちむいていのられ
けるハ誠にあわれにそふらいける
合ゆりこんだらとふしやふへ、とうしやふへ、とふしやふへ
とろとろ鳴て来た、広小路へゆか
しやんせ、にしたんほふ江はしらんせ
皆かわらへ逃てゆけ、逃てゆけ、逃てゆけ、逃てゆけ
とふしやうへ、とふしやうへ、藪の中へはいらんせ
逃たる者ハ大勢小勢、後家も娘も
なりも恥も、さまうりこ、さまうりこ、さまうり、さまうり
広い処へへつたりと、もつたる
ござひろけて、そこの子供ハそばの
方へ寄合て、けんけんいわす、合
皆さん御めんなさい、しいさん・はゝさん
ころばんせ、ほん小便せぬかいなと
皆霜にうたれて通し、いろいろ
けつこふに小家を立てそふらいしが
後後ハ袷(カ)よき持来る炬燵も
するやら飯たくやら、呑ミくい
有様ハ、けにも非人のけいふと見(カ)たます
次第にしつまり、ぼつとり、ぼつとり、ぼつとり、ぼつとり
やんだ、合そんならおいとま
もふそふ、ゆりたしたら又来ましよと
皆それそれ我家に帰り安心さんせ
地震も納まる内にハ門あけ、内にハ
座が落、そつちもこつちも
世直しの御酒を一こん
悦ひ申ませふ
※合に続く部分は合いの手(囃子詞)
読み下し
新板地震万歳
嘉永七年寅の霜月、頃ハ五日晩方海上鳴ける大地震。合コリャどうしょう、腰立かぬる、足元より水もさかまく、つなミ(津波)もうち流けるハ誠に苦しうそうらいける。合南無金毘羅大権現・南無瑜加大権現、助てたび給へ。そりゃまた来た、と(疾)う、とう、とう。お(負)うた子供ハわんばく(腕白)ゆうやら、おろせばほ(吼)える。合ヤレコリャこの子をどうしょうへ。火の元大事、おれハひら地へ、かゝハ船へと。合チリヂリワカレユク。よろよろ、めきめき裏屋根の落る音にて。合ヒトビトびっくり。しょうたく(小宅)も店も土蔵も一ぺんに、ばたばたくだけてわれて。合天道さんお助なされて、妙見さん。とあちこちむいていのられけるハ誠にあわれにそうらいける。合ゆりこんだらどうしょうへ、どうしょうへ、どうしょうへ。どろどろ鳴て来た。広小路へゆかしゃんせ、にしたんぼふ(西田んぼ)へはし(走)らんせ。皆かわらへ逃てゆけ、逃てゆけ、逃てゆけ、逃てゆけ。どうしょうへ、どうしょうへ、藪の中へはいらんせ。逃たる者ハ大勢小勢。後家も娘もなりも恥も、さまうりこ、さまうりこ、さまうり、さまうり。広い処へべったりと、もったるござひろげて、そこの子供ハそばの方へ寄合てけんけん(喧々)いわす。合皆さん御めんなさい。じいさん・ばゝさんころばんせ。ほん小便せぬかいなと。皆霜にうたれて通し、いろいろけっこうに小家を立てそうらいしが、後後ハ袷よぎ持来る、炬燵もするやら飯たくやら。呑ミくい有様ハ、げにも非人のけいふ(軽浮)と見(カ)たます。次第にしづまり、ぼっとり、ぼっとり、ぼっとり、ぼっとりやんだ。合そんならおいとまもう(申)そう。ゆりだしたら又来ましょと、皆それぞれ我家に帰り安心さんせ。地震も納まる内にハ門あけ、内にハ座が落、そっちもこっちも世直しの御酒を一こん悦び申ませふ。
意訳
新板地震万歳
嘉永7年寅の年、11月5日の晩方、海鳴りがして大地震が起こった。合これはどうしよう、腰が立たない。足元に水が逆巻き、津波も打寄せて誠に心配なことでございます。合南無金毘羅大権現・南無瑜加大権現、お助け下され。それ、又来た。早く、早く、早く。背負った子供は言う事を聞かず、下せば泣き叫ぶ。合やれ、この子をどうしよう。火の元が大事。俺は平地へ、妻は船へと。合散り散りに別れて行った。よろよろ、めきめき裏屋根の落ちる音がして。合人々はびっくり。店も土蔵もいっぺんにバタバタ砕けて割れて。合「お天道様どうかお助け下さい」「妙見様」と、あちこち向いて(人々が)祈っている様子は誠に憐れでございます。合揺れこんだらどうしよう、どうしよう、どうしよう。(海鳴りが)どろどろ鳴ってきた。広小路へ行きなさい、西の田んぼへ走りなさい、みんな河原に逃げていきなさい。逃げていきなさい、逃げていきなさい。どうしよう、どうしよう。藪の中へ入りなさい。逃げている者は大勢、小勢。後家も娘も、なりも恥も。さまうりこ、さまうりこ、さまうり、さまうり(この部分意味不詳)。広い場所へべったりと持っているゴザをひろげて、そこらの子供は傍の方へ寄り合って騒がしくする。合皆さんごめんなさい。お爺さん、お婆さん、横になりなさい。小便せんか。皆霜に打たれ通し(で寒いので)色々結構に(避難)小家を建てているが、後には袷や夜着を持ってきて、炬燵を据えるやら飯を炊くやら、飲み食いするありさまは実に貧しい者たちの浮ついた行動である。次第に地震も鎮まり、ゆっくりと収まった。合それではお暇しようか。この上また揺れ出したら又ここに来ましょう。みんなそれぞれわが家に帰り、安心しなさい。地震が収まっているうちに門を開け、家の内では座が落ちているが、そっちもこっちも世直しの御酒を一献傾けて、喜び申しましょう。
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