第二次世界大戦前の新聞 植物標本(押し葉標本)は、水分をとりやすい新聞紙にはさんで作ることが多い。 今回紹介するのは宇野確雄植物コレクションの標本(詳しくはNo.35)をはさんでいた新聞紙。 第二次世界大戦前のものが多く、古いものでは明治30年代に発行されたものもあり、当時の出来事や世相をうかがい知ることができる。
タイプ標本と同時に採られた植物標本(アテツマンサク) 新見市名誉市民の植物研究家、白神寿吉(しらが じゅきち)氏(1880-1970)が1914年8月5日に岡山県阿哲郡黒髪山(現、新見市)で採集したもの。 牧野富太郎氏がアテツマンサクの新種記載に用いた証拠標本(タイプ標本)と採集年月日、採集地が一致することから、白神氏と牧野氏は一緒に現地を訪れ、標本を採集したと考えられる。
希少なノレンコウモリ標本 岡山県内での生息状況は長らく不明であったが、2017年に新見市の洞くつで再発見された。 県内では、分布が局所的で個体数も少なく、繁殖は確認されていない。 岡山県:絶滅危惧Ⅱ類、環境省:絶滅危惧Ⅱ類
岡山県で絶滅したハマグリ 縄文時代より日本の代表的な食用貝類であるが、1990年代以降は全国各地で減少または消滅した。 岡山県では、戦後しばらくは多産していたと思われるが、2000年代以降は生貝も合弁死殻も発見されていない。 この標本は戦前に畠田和一が和気片上(現・備前市)で生貝として採集したもの。 岡山県:絶滅、環境省:絶滅危惧Ⅱ類。
アンモナイト化石ドウビレイセラス Douvilleiceras sp. 径13cm マダガスカル 中生代白亜紀 地層中でほとんど変形を受けておらず、炭酸カルシウムの殻本体が残った保存の良い化石。 第1展示室で公開中。
ヤママユの雌雄型 2019年、岡山県赤磐市で中学生が採集した。左右で色が違うのでわかりやすいが、色の違いは個体変異によるもので、雌雄差は左右の触角の違いで確認できる。 右側がオス。 激レアと言われる雌雄型の中でも、これほどに正中線で明瞭に分かれ、傷みのない、しかも野生の大型種は超一級品の資料である。
観察会で見つかった新種オカヤマクロチビジョウカイ 1998年4月に岡山県加茂川町(現吉備中央町)で開催された当館の自然観察会で採集された標本などを元に2020年に新種記載されたジョウカイボン科の甲虫。 観察会数日前の下見でも採集されており、種の基準となるホロタイプ(写真)にはその個体が指定された。 学名は採集者の奥島学芸員にちなみMalthodes okushimaiと命名された。
佐藤清明植物コレクション 岡山県里庄町出身の博物学者、佐藤清明(きよあき)氏(1905-1998)が収集した約1万点の植物標本コレクション。 採集者には佐藤氏だけでなく、岡山県内外を問わず多くの研究者が名前を連ねており、氏の交友関係の広さが分かる。 写真は、鯉ヶ窪湿原(新見市)で採集されたオグラセンノウとヤチシャジンの標本。 ヤチシャジンは当湿地から既に絶滅しており、かつての豊かな植物相がしのばれる。
牧野富太郎博士採集のタケ・ササ類標本(佐藤清明植物コレクションから) 高知県出身の牧野富太郎博士(1862-1957)は、日本の植物分類学の基礎を築いた重要な人物。 その採集標本約50点が、佐藤清明植物コレクション(No.59で紹介)の中から当館友の会会員によって発見された。 いずれもタケやササの仲間の標本で、ラベルはおそらく牧野博士の自筆。 牧野博士と佐藤氏には親密な交流があったことから、同博士から直接標本が贈られたものと考えられる。